日本神話に登場する創造神の夫婦、イザナキとイザナミ。
日本の神々や国土を生んだ神として知られています。
その物語は古典文学や絵画だけでなく、現代マンガの中でもたびたび引用され、神話的象徴や“夫婦の絆”“生と死”のモチーフとして描かれています。
今回は、そんなイザナキ・イザナミが登場する(またはモチーフとして扱われる)代表的なマンガを紹介します。
『鬼灯の冷徹』
江口夏実『鬼灯の冷徹』は、地獄を舞台とした物語です。
主にイザナミが地獄の世界の“ご隠居”として描かれ、さらに日本神話であるイザナキ・イザナミのエピソードが楽しく学べる構造になっています。
登場回まとめ
5巻 第37話「神代あのよ革命」
短いながら、イザナキ・イザナミによる“国土創造”“神誕生”“黄泉の国の流れ”といった神話要素がテンポ良く描かれる名エピソード。
日本神話がよくわからない人にとっても、これほど端的に、ふふっと笑いながら概要を学べる作品はなかなかありません。
11巻 第90話「恨みつらみあってこそ」
地獄のご隠居様となったイザナミの住む建物をリニューアルするお話。
ガウディ風の建築をリクエストしたり、天然の茄子との微笑ましい掛け合いを見せたりと、イザナミさんの“いいお姉さん感”が光ります。
“恨み”について過去のイザナキとの一件を達観した視点から語る場面には、キャラクターとしての深みがあります。
『出禁のモグラ』
『出禁のモグラ』の作者は、『鬼灯の冷徹』でおなじみの江口夏実。
主人公のモグラがあの世から出禁になってしまった経緯には、イザナキ・イザナミの神話が関係しています。
登場回まとめ
11巻 第96話「弓と剣」
日本神話におけるイザナキ・イザナミのあらましが描かれています。
イザナキ・イザナミの“諍いの後”、神と人間との関わりがテーマになっており、同じ神話モチーフでも異なる味わいが楽しめるエピソードです。
『鬼灯の冷徹』でのギャグ的な扱いに比べ、
こちらではより神話考証的な重みが感じられます。
両作品を読むことで、イザナキ・イザナミ像が立体的に見えてくるでしょう。
『米蔵夫婦のレシピ帳』— 日常の中の神話的モチーフ
片山ユキヲ『米蔵夫婦のレシピ帳』は、妻を失った卯之助が、
妻の残した手書きのレシピ帳をもとに、不器用に料理を始めていく物語です。
ただの料理マンガではなく、妻の残したレシピを通して、別れと再生を描く感動の作品。
ファンタジー要素は皆無ですが、日本神話の要素はこのような作品にも自然に溶け込んでいます。
登場回まとめ
4巻 第35話・第36話
亡き妻・りほ子のレシピ帳を頼りに、主人公・卯之助が出雲大社を訪れるエピソード。
卯之助をイザナキ、りほ子をイザナミに見立てた構成で、
「生者が死者を想い、日常を通して再びつながる」という、現代的な“黄泉がえり”の物語になっています。
神話を直接語ることなく、感情の中で神話を再生しているような、非常に静かで力のある回です。
神話的象徴としてのイザナキ・イザナミ
イザナキ・イザナミは、日本神話の中で次のような象徴を持ちます。
- 創造と国土形成 — 世界や神々を生み出す力
- 夫婦関係 — 神聖かつ複雑な絆
- 生と死 — 生者と死者の境界
現代マンガでは、こうした象徴が“日常”や“ギャグ”に落とし込まれることが多く、
『鬼灯の冷徹』では風刺的に、
『出禁のモグラ』では神話的に、
『米蔵夫婦のレシピ帳』では情緒的に描かれています。
同じ題材でも全く異なるアプローチが成立しているのが、このモチーフの面白さです。
古代の神々が、現代のキャラクターの中に息づいている。
それを見つけることこそ、マンガを“読む快楽”のひとつです。





