『呪術廻戦』考察#14|渋谷事変は“神の死”だった? ― 夏油傑と真人が描く終末論 (Jujutsu Kaisen Analysis: Shibuya Incident — Geto and Mahito’s Apocalypsed)

呪術廻戦(Jujutsu Kaisen)

『呪術廻戦』における渋谷事変は、物語の大転換点です。

具体的には、『呪術廻戦』10巻 第83話「渋谷事変①」から始まります。

わたし自身、読んでいて「どうせ五条先生がすぐ復活して活躍するんでしょ〜」と思っていました。

ところが、良くも悪くも予想は裏切られ、まさかの五条先生、長期間の不在!

残された虎杖悠仁を始め、五条悟を頼り切っていた面々、邪魔に思っていた面々が互いの思惑を胸に、ひっちゃかめっにちゃかします。

五条悟の封印、夏油傑の再登場、真人の暴走--

一見、カオスなこの一連の出来事を俯瞰してみると、これは単なる戦闘ではありません。

“神の死”という哲学的テーマを描いています。

この記事では、「神」「呪い」「人間」という三つの軸から、渋谷事変を読み解いていきます。

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渋谷事変の核心 ― 神のいない世界の始まり

渋谷事変は、物語の“秩序の崩壊”を意味しています。
それまで五条悟という“絶対者”が存在した世界。
彼の存在は、まさに「神」に等しいものでした。

しかし、五条悟が獄門疆によって封印された瞬間、
世界は“神の不在”を迎えます。

この瞬間から、呪術界は混乱と闇に沈み、
人々は初めて「自分の意志で生きる」ことを迫られるのです。

五条が封じられるということは、
倫理・秩序・正義の基盤が崩れ落ちること。
つまり渋谷事変は、「神の死」=「人間の始まり」なのです。

夏油傑と真人 ― 二つの終末思想

渋谷事変を動かしていたのは、二つの“人間否定”の思想でした。

夏油傑の終末論 ― 「人間は救えない」

夏油傑は、人間を“呪いを生む存在”と見なし、
呪術師だけの世界を創ろうとします。

その思想は、一見すると正義のようでありながら、
根底には“愛”と“絶望”が混ざっています。

彼は信じていた世界に裏切られた預言者。
信仰を失った者が、「新しい信仰=呪術師の世界」をつくろうとした。
それが、彼の終末思想の本質です。

夏油傑の“愛”と“絶望”における堕落の物語は、こちらでも考察しています。ぜひ読んでみてください。

関連記事 -> 『呪術廻戦』考察#8|夏油傑 ― “堕天と救済”の二重構造 ― ルシファーからプロメテウスへ (Jujutsu Kaisen Analysis: Suguru Geto — The Duality of Fall and Salvation, from Lucifer to Prometheus))

真人の終末論 ― 「人間こそ呪い」

真人は、夏油とは正反対に、
「人間こそが呪い」だと断じます。

彼にとって人間は“魂の素材”であり、
弄ぶ対象でしかない。

彼の目的は「進化」ではなく「消滅」。
人間という種が、呪いに還ることを望んでいました。

真人は哲学的には、”混沌”をもたらす者。こちらかの記事で詳しく解説しています。

関連記事 -> 『呪術廻戦』考察#7|真人 ― “混沌の哲学者”が問いかける人間の本性 (Jujutsu Kaisen Analysis: Mahito — The Philosopher of Chaos and Human Nature)

夏油は「理想による滅び」を、
真人は「本能による滅び」を目指した。

──二人は、異なる形の“終末の預言者”だったのです。

“終末”というと、世界を滅ぼすイメージが強いかもしれません。

この真人も夏油傑も、日本を滅茶苦茶にしていくのですが、彼らはただ壊したいだけではない。

新しく何かを築こうとして、そのために破壊しています。これは神話・宗教における「世界の終末」を象徴しているとも言えます。

「世界の終末論」については、こちらの記事でも解説しています。

関連記事 -> 元ネタ解説#8 世界の終末論|キリスト教の7つのラッパの意味をマンガで考察 (Reference Analysis: Seven Trumpets in Christianity)

渋谷という神話空間 ― 現代の“天地開闢”

渋谷は、ただの戦場ではありません。
光(五条)と闇(夏油・真人)が交錯する“神話空間”です。

結界が張られ、外の世界と隔絶された渋谷は、
まるで“再創造”のために閉じられた新しい天地開闢の舞台。

五条という“神”が封じられ、
呪いという“闇の生命”が動き出す。

世界は一度リセットされ、
“神なき人間の時代”が始まったのです。

神の死と再生 ― 五条悟の封印が意味するもの

哲学者ニーチェは言いました。

「神は死んだ。われわれが彼を殺したのだ。」

五条悟の封印もまさにそれです。
五条という絶対者を封じることで、“神を殺した”のです。

しかし、ニーチェの言葉の続きはあまり知られていません。

「神の死のあと、われわれは新しい価値を創造しなければならない。」

そう、神がいなくなったあとの世界には、
“新しい倫理”が必要になります。

それが、虎杖悠仁や伏黒恵たちの役割です。
彼らは五条の不在という“神の死後の時代”に、
人として、何を信じ、どう生きるかを模索しているのです。

ニーチェ×禪院真希

ニーチェは昔の哲学者です。

彼のことをざっくり説明すると、「神に頼らず、地に足つけて生きようぜ!」です。

それまでは宗教的な教えや、ちょっと抽象的な「神の国」などの考え方が主流でした。

しかしニーチェは、神や信仰だけでなく、”自分が自らの意思でどう生きるか”を強く問うた人物です。

禪院真希の考察で詳しく説明しています。こちらも合わせて読むと、さらに理解が深まります。

関連記事 -> 『呪術廻戦』考察#11|禪院真希 ― 呪力ゼロでも最強になった理由と再生神話の秘密 (Jujutsu Kaisen Analysis: Maki Zenin — How She Became the Strongest Without Cursed Energy and the Secrets of the Rebirth Myth)

渋谷事変後の世界 ― 新しい神話の胎動

五条悟という“神”がいなくなり、
夏油と真人という“預言者”も消えたあとに残るのは、
“人間の物語”です。

虎杖は、あらゆるものを救い、
宿儺は、古代の神として再び動き出す。
乙骨・秤・鹿紫雲といった次世代の術師たちは、
“人間の進化”の可能性を象徴しています。

つまり、『呪術廻戦』はここから、
“神話の再構築”=“新しい創世記”へと進んでいくのです。

まとめ ― 渋谷事変は「神話の終わり」であり「人間の始まり」

渋谷事変とは、『呪術廻戦』という物語の中で
最も大きな思想的転換点でした。

それは、
五条という神が封印され、
夏油(羂索)や真人という人間の悪意が滅びる瞬間。

そして、
虎杖・伏黒・釘崎ら“人間”が、
初めて“自分の言葉と意志”で生き始める瞬間でもあります。

──“神の死”を経て、人間の物語が始まった。

それが、「渋谷事変」という出来事の
最大の意味なのです。

⚠️注意
この記事で紹介している内容はあくまで考察です。
渋谷事変に関する元ネタが明言されているわけではありません。
ただ、こうした視点で読み解くことで、『呪術廻戦』をより楽しんでいただけたら嬉しいです。

関連記事 -> 『呪術廻戦』考察#3|五条悟は“現世の観音”?六眼と無量空処に隠された秘密 (Jujutsu Kaisen Theory: Gojo Satoru’s Six Eyes Explained)

関連記事 -> 『呪術廻戦』考察#7|真人 ― “混沌の哲学者”が問いかける人間の本性 (Jujutsu Kaisen Analysis: Mahito — The Philosopher of Chaos and Human Nature)

関連記事 -> 『呪術廻戦』考察#8|夏油傑 ― “堕天と救済”の二重構造 ― ルシファーからプロメテウスへ (Jujutsu Kaisen Analysis: Suguru Geto — The Duality of Fall and Salvation, from Lucifer to Prometheus)

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