『呪術廻戦』考察#18|伏黒恵と渋谷事変 ― “イザナキ神話”に見る影と再生の物語 (Jujutsu Kaisen Analysis: Megumi Fushiguro — Shibuya Shadows and Rebirth)

呪術廻戦(Jujutsu Kaisen)

『呪術廻戦』10巻 第83話「渋谷事変①」から始まるこの章は、虎杖悠仁だけでなく伏黒恵にとっても“変革”の物語でした。

虎杖悠仁が罪と苦しみを抱えて生まれ変わる物語だとすれば、
伏黒恵は“影の中から世界の形を作り直す”存在です。

この伏黒恵の役割が顕著に現れたのが、14巻 117話「渋谷事変㉟」です。

今回は、伏黒恵が“影”の術式を通して「死と再生」を体現する存在であることを、イザナキ神話の構造から見つめます。

そして、混沌の中から世界を創り出す“創造神”としての伏黒の姿を、渋谷事変という物語の中で浮かび上がらせていきます。

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伏黒恵と“影”の術式とは ― 十種影法術に秘められた神話的構造

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はじめに、伏黒恵というキャラクターについてのモチーフや役割をおさらいしましょう。

関連記事 -> 『呪術廻戦』考察#4|伏黒恵と十種影法術 ― 影に宿る死と再生の神話 (Jujutsu Kaisen Analysis: Megumi Fushiguro and Ten Shadows Technique)

伏黒恵は、“創造と影(死と生)の狭間にいる存在”です。

伏黒が操る「十種影法術」は、古事記に登場する“十種神宝(とくさのかんだから)”がモチーフとなっています。

影から式神を生み出すその力は、まさに無から有を生む神的創造行為そのもの。

  • 「影」=混沌、未分化の世界
  • 「式神」=形ある世界、命

この構造は、イザナキが混沌を分けて“形”を与えた行為と重なります。

関連記事 -> 元ネタ解説#2 イザナキ・イザナミ|“創造と死”の神話 ― 日本神話に見る破壊と再生の原型 (Reference Analysis: Izanagi and Izanami — Creation and Rebirth in Japanese Mythology)

伏黒の術式は単なる戦闘能力ではなく、世界を再構築する“創造”の象徴です。

彼が“影の中”から何かを呼び出すたびに、それは闇から光が生まれる瞬間――
すなわち、世界が再び形を得る“創造神の行為”なのです。

「光」とは何か ― 影の中から生まれるもの

その“光”とは何か?

  • “影から命を生み出す”力
  • “生と死の境界を見つめ直す”力
  • “破壊の後に何を残すかを決める”力

必ずしもその“光”が良い方向に進むとは限りません。
ただ、何かを生み出す原動力そのものと捉えると、この先の考察がしっくりくるはずです。

死と再生 ― 渋谷事変におけるイザナミとの邂逅

渋谷事変で伏黒が経験するのは、まさに“死の淵”です。

仲間を助けるための呪霊との闘い、そして奇しくも父・伏黒甚爾との対決。

地獄のような戦いの連続の中で、伏黒恵は死の淵に追いやられ、死を受け入れ、禁断の摩虎羅を召喚します。
命を落としかけるその場面は、イザナキがイザナミを追いかけて“黄泉の国へ行く”神話を想起させます。

黄泉=呪いの世界。
そこは“生”と“死”の境界が曖昧に溶け合う場所であり、伏黒の「影」と深く響き合っています。

伏黒はそこで一度“死”に飲み込まれかけながらも、再び影の中から立ち上がります。
それは、イザナキが禊(みそぎ)によって穢れを祓い、新たな神々を生み出した瞬間と同じ構造です。

“死”の先に“再生”がある――
伏黒の物語は、その神話的パターンを現代の呪術という形で体現しているのです。

関連記事 -> 元ネタ解説#2 イザナキ・イザナミ|“創造と死”の神話 ― 日本神話に見る破壊と再生の原型 (Reference Analysis: Izanagi and Izanami — Creation and Rebirth in Japanese Mythology)

宿儺と伏黒 ― “破壊”と“創造”の融合

両面宿儺が伏黒に執着した理由――それは、“影”の術式こそが“再生の鍵”だったから。

宿儺=破壊神。
伏黒=創造神。

二人が交わる構図は、まるでスサノオ(荒ぶる破壊の力)とイザナキ(創造の秩序主)の再演です。

渋谷事変を経て死滅回游に至り、ついに両面宿儺が伏黒の肉体を奪うのは、単なる支配ではなく、“新しい創造”のための儀式。
それは、破壊と再生が一体化する神話的瞬間でもあります。

この“破壊と創造の融合”は、渋谷事変を通して浮かび上がった『呪術廻戦』最大の主題でもあります。

伏黒を通して宿儺が新しい世界の形を作り出そうとする――
この構造こそ、『呪術廻戦』が描く“神なき時代の創世記”の核心なのです。

“影”の向こう側へ ― 伏黒恵が象徴する人間の可能性

伏黒恵は“救われる側”ではありません。
自らが“創る側”へと変化していく存在です。

ここが虎杖悠仁との決定的な違いです。

  • 虎杖悠仁=“地蔵菩薩”として他者の苦を背負う
  • 伏黒恵=“イザナキ”として世界を再構築する

この二人は、受苦と創造の二極として物語を支えています。

伏黒が象徴するのは、人間が“死”や“絶望”という闇を通して、なお“何かを生み出そうとする力”。

この力は、単純にポジティブなものではありません。
むしろ、極めて人間的な“創造の意志”として、物語を良い方向にも悪い方向にも進められる危うさを孕んでいます。

影を抱えたまま前に進む伏黒恵の姿に、私たちは“生きるという再生”そのものを見ます。

まとめ:伏黒恵は“闇を抱えた創造神” ― 渋谷事変が示した死と再生の神話

渋谷事変における伏黒恵の物語は、“死を通じての誕生”という神話的構造を内包しています。
宿儺との融合を経て、彼は“光と闇の創造主”へと進化しようとしています。

伏黒恵は、“影”という闇を操りながら、呪術の世界を再び創り直す存在。
それは、イザナキが黄泉を経て新しい神々を生み出した物語の現代的な継承なのです。

⚠️注意
この記事で紹介している内容はあくまで考察です。
渋谷事変に関する元ネタが明言されているわけではありません。
ただ、こうした視点で読み解くことで、『呪術廻戦』をより楽しんでいただけたら嬉しいです。

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