『呪術廻戦』考察#6|七海建人 ― 理性と秩序で“呪い”に抗う男 (Jujutsu Kaisen Analysis: Kento Nanami — A Man Fighting Curses with Reason and Order)

呪術廻戦(Jujutsu Kaisen)

七海建人は、呪術師であると同時に、元・会社員という異色の経歴を持つ人物です。

彼の存在は、“現代社会における倫理観と呪術の境界”を描き出しており、単なる戦闘キャラ以上の深みを与えています。

この記事では、七海の生き方・術式・思想を通して、「秩序」「合理性」「人間の限界」というテーマを神話と哲学の観点から読み解きます。

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七海建人 ― 社会と呪術のはざまで生きる人間

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七海建人はかつて一般企業に勤めていた“元サラリーマンの呪術師”。

彼が呪術界に戻った理由は、「労働に意味を感じなかったから」。

一見ドライに聞こえますが、その根底には“人が生きることの意味”を常に問う姿勢があります。

『呪術廻戦』の中で七海建人は、呪術師でありながら、デキるサラリーマン的です。

  • 戦闘時もスーツを着ている
  • 残業をしない
  • 感情に流されない
  • 効率的・計画的に物事を進める

効率や時間を重んじる姿勢は、まるで現代社会における“秩序の神”のようでもあります。

「仕事とは、与えられた時間の中で最善を尽くすことだ」

七海にとって、“仕事”とは呪術も労働も同じ。
世界の不条理や混沌の中で、彼はあくまで「秩序ある行動」を信条とするのです。

術式から垣間見えるサラリーマン

七海建人の術式は2つ。

  • 十劃呪法
  • 瓦落瓦落

これらの術式は、元サラリーマンだった七海建人ならではのものといえます。

十劃呪法

十劃呪法は対象の長さを7:3の比率で分割し、その点を正確に攻撃すると必ず切断できるというもの。

この“7:3”というバランス。10:0でもなく5:5でもなく、7:3でなければいけません。

なぜならサラリーマンたるもの、七三分けでなければいけないから。

さらに言うと、七海(ななみ)という名前も七三分けから来ています。

これは非常に象徴的です。

  • 七三分けは「社会的に整えられた秩序」の象徴
  • 乱れた髪=混沌、暴力、感情
  • 整えた髪=理性、社会、責任

七海の七三分けは“理性の外見化”。
彼の名前・髪型・術式の比率が一致しているのは偶然ではなく、
「社会的理性で世界を保つ男」というアイデンティティの二重構造なのです。

瓦落瓦落

瓦落瓦落は十劃呪法の応用技です。

七海建人の術式には縛りがあり、決められた労働時間を超えると、つまりは残業になると呪力がパワーアップします。
その状態で十劃呪法を用いてモノを破壊すると、破壊されたモノにも呪力が宿り、攻撃できるようになる技です。

真人との戦闘では、この技で建物を破壊して攻撃しました。

残業を嫌う七海建人らしい“縛り”ですが、さらに深掘りをすると、「瓦落瓦落」という名前にも意味がありそうです。

“瓦落(がら)”とは、「取引相場が急にひどく落ちること」。

投資をしている人は「ガラる」という言葉を使うことがあります。

七海建人はサラリーマン時代、投資関連の仕事をしており、そこから来ている可能性が高いです。

残業を強いられ、ガラる。そして建物をガラガラと崩す。

七海は元サラリーマン。
労働社会=“理性と秩序の構造”の中に生きていた人間です。
その彼が放つ技の名前が「瓦落瓦落」──

つまりこれは、
「構造(会社・社会・秩序)が崩壊する音」
を象徴しているとも読めます。

“秩序の神”と“人間の弱さ”

七海建人は単なる戦闘技術ではなく、
「秩序を見出す力」そのものを象徴しています。

呪い=混沌、破壊、感情の暴走。
それに対し、七海の術式は数学的・論理的な秩序の刃で対抗します。

混沌に対して「理(ことわり)」で切り返す。
それはまさに、“合理性を信仰する現代の戦士”とも言えるでしょう。

マアト的秩序(静的な正義・調和の象徴)

七海に直接対応する神話的モチーフは登場しませんが、彼の構造は非常に象徴的です。

彼は「理性を保つことで混沌に立ち向かう存在」。
これは古代神話における“裁定者”や“秩序の守護者”と重なります。

秩序や法則を守る神はいろいろといますが、代表的な例で言うとマアトがそうです。

マアト(Ma’at)はエジプト神話に登場する女神で、他の神々のように「戦った」「恋をした」「創造した」といった劇的な神話を持ちません。

彼女はむしろ、世界そのものを支える“法則”や“秩序”を神格化した存在です。

死者の心臓を量る

マアトの最も有名なエピソードは、死者の審判です。

エジプトでは、死後に人は「オシリスの裁き」を受けます。
そのとき、死者の心臓(魂)を天秤にかけて、
マアトの羽(真理・正義)と釣り合うかどうかが試されるのです。

心臓が羽よりも軽い(=正しく生きた)と、死者は来世での平和を得ます。
羽よりも重い(=悪を犯した)と、怪物アメミットに心臓を食われ、魂は消滅します。

つまりマアトは、人の魂の「真実の重さ」を測る秤の基準です。

七海は「秩序の中に生きる人間」そのものです。
彼はルールを守り、私情を持ち込まない。
けれど決して冷たいわけではなく、“世界を保つための秩序”を選んで生きている。

それは、マアトの象徴である「真理・均衡・正しさ」に近い。

「オフィスに勤めるより呪術師の方が、まだマシだと思えたから戻った」

この言葉には、“不条理な社会の中で秩序を守る”という逆説的な理性があります。
七海は世界の不調和を嫌う。
でもそれを変えようとはしない――ただ「正しいバランス」に戻そうとする。

つまり七海の正義は、世界の秩序を壊さずに保とうとする“静かな理”なんです。
この生き方は、マアトの「秩序」と通ずるものがあります。

人間的な弱さ

一方で、七海は完全な神ではなく、人間としての弱さを抱えています。
疲れ、迷い、苛立ち、そして死の恐怖――それらを受け止めながらも、彼は秩序の側に立ち続ける。

その在り方は、仏教的に言えば「中道(ちゅうどう)」――
極端に走らず、理性をもって世界を受け入れる立場に近いと言えるでしょう。

若き呪術師たちとの対比 ― 経験が生む“静かな情熱”

七海と虎杖、伏黒たちの関係性も興味深い構造です。
彼は若者たちの情熱を否定せず、距離を保ちながらも導こうとします。

それは「信仰」と「理性」の関係に似ています。
虎杖のように信じ抜く力、伏黒のように葛藤しながら進む力――
その両方を認め、現実的な指針を示すのが七海の役割です。

彼は決して感情を排除しているわけではありません。
むしろ、感情を制御することで他者を救おうとする、極めて人間的な理性の持ち主なのです。

まとめ

七海建人という人物を通して描かれるのは、
呪い(混沌)と理性(秩序)の永遠の対立構造です。

彼の生き方は、神話的な意味で「人間が秩序を創造する存在」であることを示しています。

合理的で冷静、しかし心の奥に熱を秘めた男。
彼は『呪術廻戦』の中で、最も“現代的な哲学者”として描かれたキャラクターなのです。

※※注意※※
この記事で紹介している内容はあくまで考察です。
七海建人に関する元ネタが明言されているわけではありません。
ただ、こうした視点で読み解くことで、『呪術廻戦』をより楽しんでいただけたら嬉しいです。

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