『呪術廻戦』の乙骨憂太はとても人気のキャラクターです。
イケメン、仲間想い、そして強い。
さらに、リカちゃんという謎多き呪霊、膨大な呪力。
魅力とミステリアスと人気要素の詰め合わせパックのようなキャラクターです。
そんな乙骨憂太はどんなモチーフを持っているのか、考察していきたいと思います。
※※注釈※※
乙骨憂太は『呪術廻戦』でも人気キャラクターですが、連載が始まる前の読み切り漫画『呪術廻戦0』の主人公でもあります。
本編では語られなかった「百鬼夜行」の全容が描かれているほか、折本里香が何者で、なぜ特級過呪怨霊として乙骨憂太に付いているのかなどの経緯が描かれています。
『呪術廻戦0』を読んだ後のほうが、考察の内容がスッと理解できると思います。気になった方はぜひ読んでみてください。
乙骨憂太のモチーフとギリシャ神話オルフェウスとの関係
乙骨憂太の物語は、「愛」と「死」が密接に結びついた関係の上に成り立っています。
彼が抱える特級過呪怨霊・祈本里香は、単なる呪霊ではなく、乙骨の「愛」の延長線上に生まれた存在です。
つまり、愛する人の死が、彼にとっての力となり、同時に呪いとして彼を縛る──その構造自体が物語の核になっています。
この物語構造は、ギリシャ神話に登場するオルフェウスとエウリュディケの関係と非常に似ています。
オルフェウス神話とは?愛する者を死から取り戻そうとした男の物語
オルフェウスというと、ゲーム『ペルソナ』でお馴染み。名前だけでも知っている人は多いのではないでしょうか。
オルフェウスとはどんな人物なのか?について解説します。
オルフェウスの誕生と才能
オルフェウスは、生まれながらにして音楽の才能を持った人間です。
特に竪琴の演奏は自然界の動物たちさえも魅了するほどでした。
その音色は人間の心をも打ち、神々や冥界の存在でさえ耳を傾ける力を持っています。
エウリュディケとの出会いと結婚と死別
オルフェウスは若くして美しい妻エウリュディケと出会い、恋に落ちます。
二人は結婚し、幸せな日々を送ります。しかし、幸福は長くは続きません。
ある日、エウリュディケが毒蛇に咬まれて命を落としてしまいます。
オルフェウスは深い悲しみに沈み、絶望します。彼にとって、愛する者を失うことは耐えがたい出来事でした。
冥界への旅
愛する妻を取り戻すため、オルフェウスは死者の国・冥界に赴きます。
彼の竪琴の音色は冥界の神ハーデスやペルセポネをも感動させ、冥界の規則を超えて妻の返還を許されます。
ただし、条件として「冥界から地上に戻るまで、振り返ってはいけない」という約束が課されます。
帰還途中の悲劇
地上へと戻る途中、オルフェウスは不安と愛情のあまり振り返ってしまいます。
その瞬間、エウリュディケは永遠に冥界に引き戻されてしまいます。愛ゆえに行動を誤り、二人の再会は果たせませんでした。
オルフェウスの死と神話的存在
悲嘆に暮れたオルフェウスは、生涯を孤独に過ごします。
最終的には狂信的な信者たちにより命を奪われてしまいます。
死後も竪琴の音色は神話として語り継がれますら、
オルフェウスは 「愛ゆえに悲劇を背負った人間でありながら、音楽の力で神々に影響を与えた存在」 として伝説化されます。
死者を愛するテーマ ― オルフェウスと乙骨憂太の共通点
乙骨憂太とオルフェウスの最も大きな共通点は、「愛する死者との絆」 というテーマです。
オルフェウス
- 妻・エウリュディケを失い、冥界へと下る
- 神々の力を借りず、音楽の力(魂の表現)だけで彼女を取り戻そうとする
- しかし最後に、約束を破って振り返ってしまい、再び失う
→ 「愛ゆえの喪失」「芸術と死」「魂の再生」という象徴的な物語
乙骨憂太
- 幼なじみの少女・祈本里香を失い、その魂が呪いとして彼に取り憑く
- 彼は彼女を救いたい、解放したいと願い、最終的には彼女を昇華させる
- 呪い(死)を愛で包み、“解放=救済”という形で別れを果たす
死者を愛し、その魂とともに成長するという構造は、まさにオルフェウス神話の現代的変奏です。
音楽と呪力の共鳴 ― オルフェウス神話と乙骨憂太の能力比較
オルフェウスは、音楽で自然や神々、死者の世界までも動かす力を持っていました。
彼の竪琴は、秩序や感情、魂にまで影響を与える象徴的な存在です。
乙骨憂太もまた、呪力という形で“魂の波動”を操る存在です。
乙骨憂太の場合、その力は自分自身の能力というよりも、祈本里香という特級過呪怨霊の力を媒介にして発揮されるものです。
リカの呪力を引き出し、攻撃や防御に応用できるため、音楽で世界を動かすオルフェウスの力に似た“表現力と創造力”を持っていると解釈できます。
- オルフェウス:音楽で自然や死者の秩序を動かす
- 乙骨憂太:リカの呪力を媒介に、魂の波動を操り戦う
呪力を「魂の表現」として捉えると、乙骨の能力はまさに音楽のような波を持つ創造力です。
この自由さと表現力こそが、オルフェウスの芸術性と強く共鳴しているポイントです。
冥界・死者領域との交感 ― 乙骨憂太は現代版オルフェウス?
オルフェウスは、愛する妻エウリュディケを取り戻すために、人間として死者の国(冥界)に降りた存在です。
冥界では神々や死者の秩序と直面し、通常の人間では耐えられない試練に挑みます。
その行為は、「生者と死者の境界を越える」という、極めて特別な体験を象徴しています。
乙骨憂太もまた、呪霊という死者の残滓と直接対話し、制御できる唯一の人間です。
特級過呪怨霊・祈本里香を宿すことで、彼は生者と死者の境界線を自由に越え、死者の力を自らの意志で操作することができます。
どちらも単なる生死の境界を超えた力を持つだけでなく、魂そのものとの接触を通じて、愛や意志を行動に変換できる存在として描かれています。
この点で、乙骨憂太はオルフェウスの現代版とも言えるキャラクターなのです。
愛と創造の二重性 ― オルフェウス神話と乙骨憂太の共通テーマ
オルフェウスの芸術は、愛から生まれた創造行為でした。
彼は妻エウリュディケへの深い愛情を音楽に込め、その旋律は神々すら魅了し、自然や死者の秩序すら動かしました。
しかし同時に、その愛の力は、彼自身を悲劇に導く死の契機ともなります。
愛ゆえに冥界を冒険し、ほんの一瞬の判断ミスで永遠に妻を失ってしまったのです。
つまり、愛は創造の源でありながら、同時に破壊の力としても働くという二重性を持っていたのです。
乙骨憂太の場合も同じ構造が見られます。
彼の呪力は、特級過呪怨霊・祈本里香への深い愛情から生まれた力です。
その力によって彼は呪霊を制御し、戦いの中で人々を守ることができます。
しかし同時に、その愛の力は呪いとして具現化し、彼自身や周囲に危険をもたらすこともあります。
愛が力として顕現する一方で、呪いとしての負荷を伴うのです。
このように、オルフェウスも乙骨も、愛=創造の源泉が同時に破壊や呪いとしても作用する存在として描かれています。
愛は人を突き動かす力であると同時に、予期せぬ結果をもたらす危険な力でもあります。
この二面性こそが、彼らの物語の中心テーマであり、読者や観客に深い感情的共鳴を与える要素となっています。
「振り返らないこと」の意味 ― 愛と解放の現代的再解釈
オルフェウスの物語における最も象徴的な場面は、冥界の出口での“振り返ってはいけない”という禁です。
彼は愛する妻エウリュディケを取り戻すために冥界を下り、命がけで出口まで導きます。
しかし出口の直前で振り返ってしまい、結果として永遠に彼女を失ってしまいました。
この瞬間は、愛に縋りすぎることの悲劇を象徴しています。
愛するがゆえに、手放すべき瞬間を見極められなかったのです。
一方で乙骨憂太は物語の終盤で、同じような選択を迫られます。
しかし彼は「振り返らずに」里香を解放する道を選びます。
愛する者を手放すことは決して容易ではないはず、しかし手放すことによって自由と救済が生まれたのです。
ここで示されるのは、単なる悲劇ではなく、愛を昇華させる現代的な再解釈です。
この対比を整理すると次のようになります。
- オルフェウス:愛に縋ったために失う。悲劇的で普遍的な運命
- 乙骨憂太:愛を受け入れ、手放すことで解放と成長を得る。現代的な再解釈
つまり乙骨憂太の物語は、オルフェウス神話の核となるテーマを引き継ぎつつも、愛を理解し、手放すことで自由になるという現代的メッセージに昇華させたものだといえます。
これにより、乙骨の行動は単なる悲劇の繰り返しではなく、神話の現代的な解釈として読むことができるのです。
振り返らない愛 ― 乙骨憂太は現代版オルフェウスとして救済を体現
オルフェウスは、愛する妻エウリュディケを取り戻すために冥界を下りました。
しかし出口の直前で振り返ってしまい、結果として永遠に彼女を失いました。
この瞬間は、愛に縋りすぎることの悲劇を象徴しています。愛する者を手放せなかったがゆえに、永遠の別れを迎えたのです。
一方で乙骨憂太は、リカを喪失したまま前を向いて生きることを選びました。
彼は愛する者の魂を抱えつつ、それを単なる呪いではなく、自らの力として昇華させます。
乙骨にとってリカの存在は呪いであると同時に、愛の象徴であり創造の源でもあるのです。
このように考えると、乙骨はオルフェウスが果たせなかった「愛の昇華」を現代において実現した存在だといえます。
彼は、“振り返らないオルフェウス”として、愛を呪いに変えるのではなく、呪いを愛に還す力を体現しているのです。
つまり乙骨憂太の物語は、単なる悲劇の再現ではなく、愛を受け入れ、手放すことで生まれる自由と救済を描いた現代的な神話の再解釈だといえます。
- オルフェウス:死を越えられず、永遠に愛を喪う者
- 乙骨憂太:死を越え、愛を呪いとして抱く者
乙骨は、神話的悲劇を“再解釈して乗り越えた存在”。
彼の姿は、「愛の終わり」を「愛の形の変化」として描き直した、現代のオルフェウスなのです。
まとめ ― 乙骨憂太は現代のオルフェウス?愛の昇華と神話的再生
オルフェウスは、愛する者を取り戻すために冥界に下り、あらゆる困難を乗り越えました。
しかし最後の瞬間に振り返ってしまい、永遠に愛を喪ってしまいます。
死を越えられなかった悲劇の象徴です。
一方で乙骨憂太は、リカという愛する者の魂と向き合いながら、死者の存在を受け入れつつ呪いを力に変えました。
彼は愛する者を永遠に失いながらも、その喪失を前向きな力として昇華させています。
死を越え、愛を呪いとして抱きながらも生きる存在といえます。
このように乙骨憂太は、神話的悲劇を単に体験するのではなく、現代的に再解釈して乗り越えた存在です。
オルフェウスが叶えられなかった「愛の昇華」を実現し、悲劇を力に変えたのです。
彼の姿は、「愛の終わり」を単なる喪失ではなく、愛の形が変化するプロセスとして描き直した現代のオルフェウスとして、物語の中で強く輝いています。
※※注意※※
この記事で紹介している内容はあくまで考察です。
乙骨憂太に関する元ネタが明言されているわけではありません。
ただ、こうした視点で読み解くことで、『呪術廻戦』をより楽しんでいただけたら嬉しいです。
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